Column

2016.09.22

真那賀について

六国(木所)のいずれかに分類することが出来る香木の中で、古来最も稀少なものは、真那賀だと申し上げられます。

真那賀と分類されている香木は、二種類に大別されると認識しています。すなわち沈香の真那賀と、伽羅の真那賀です。それは、上質の香木資源が枯渇し始めた昭和時代以降に限らず、歴史的な名香にも見受けられる現象と申し上げることができます。六国(木所)に「伽羅」という分類が確立されているのに、なぜ伽羅が真那賀として使われているのでしょうか。その理由として、二通りの要因を挙げることができると考えられます。

第一は、「何を以って『伽羅』と認識するか」という、見識に係わる問題です。つまり、「伽羅らしい伽羅とは、こうあるべきだ」という見識に基づいて、香木の種類としては伽羅であってもそれを伽羅とは見做さないという判断が、古より存在したと推察されます。この場合、「伽羅らしくない伽羅」の扱い方が重要になります。私見では、それらは「銀葉には載せられない伽羅」或いは「位の低い伽羅」として扱われるべきと考えますが、存じ上げる範囲では、それらは真那賀・羅国・新伽羅に分類されてきました。(新伽羅という木所の存在に関しましては、ここでは割愛させていただきます。)

第二は、香木資源の枯渇により、やむを得ず伽羅を真那賀として当て嵌めざるを得ないという事情の存在です。それは、殊に近年(平成時代)に見受けられるようになった傾向で、羅国にも共通する事情と思われます。伽羅として輸入された香木を伽羅ではない木所として販売することになりますから、どうしても高価になってしまいます。

いずれにしましても伽羅は立ち始めから火末まで伽羅でしかありませんから、それを真那賀(或いは羅国)と聞くことは、本来、無理があると思われます。ところが、近年に聞香を始められた方々は沈香の真那賀(或いは羅国)を体験される機会が皆無に近いため、樹脂化が十分でなく浅い香気の伽羅を上質の真那賀(或いは羅国)と思い込まれる傾向が見受けられます。因みに「伽羅系」と呼称される真那賀・羅国は、香木の種類としては「伽羅」と言えます。

さて、沈香の真那賀について、触れさせていただきます。タイ産の、いわゆる「シャム沈香」(真南蛮の項をご参照下さい)で聞香に使える品質を具えるものは、六国(木所)に当て嵌めることが不適切と思われる例外を除いて、真南蛮か真那賀かのどちらかに該当すると考えています。その割合を、経験に照らして大まかに、感覚的に申し上げますと、500本の真南蛮に対して真那賀は1本見つかるかどうか、そんな風に感じられます。しかも、それは昭和時代のことで、近年では上質のシャム沈香が発見されること自体が稀になっています。

数年前に、スティック香「麻布シリーズ」(現在の「天の海シリーズ」)の素材を探し求めてタイに出向いた際には、細かいチップ状の小片を除いて、真那賀として聞香に用い得る品質を具える塊は1本のみで、それも採集人が十数年前に見つけて自宅に保管していたものでした。益々稀少性が高まっている沈香の真那賀ではありますが、香雅堂では、なるべく多くの聞香好きの皆さま方に随時紹介させていただき、伽羅との違いを体感していただければ幸いと存じ上げています。

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