Column

2010.07.11

香道の道具

 香木の炷き方に触れるに際して、先ず「焚く」と「炷く」のおおよその概念を説明しておきたいと思います。

多くの方々は「たく」という言葉kら、火をつけて燃やすこと、あるいは火にくべることを連想されると思います。例えば仏前に供香される場合、香炉に置かれた火種の上に、細かく刻まれた香木や、何種類かの香料を調合したお香を摘んでたくことは、ごく一般的な慣習として行われていることであり、ほとんどの方が実際に体験されていることと思います。またお茶席において、席中の邪気を払い、炭の匂いを浄化するために沈香・白檀・練香をたく場合も、風炉または炉の中に直接入れたり、炭の横に置いて用います。これらの例の様に、ある程度の広さがある空間に香りを漂わせる目的で香をたく場合は、「焚く」という感覚が当てはまります。

一方、香木の微妙で繊細な香りを聞き分けて、できる限り深く味わおうとする場合には、間接的に熱を加えることにより、香木に含まれる香りの成分をゆるやかに解き放つ必要があります。それらの成分には、例えば百度に加熱された状態で香り立つもの、百三十度で香り立つもの、あるいは百八十度になってはじめて香り立つものがあるからです。それらの香りを順序良く、余すところなく解き放つ感覚を、「炷く」という言葉で表現したいのです。

間接的とは言え、小さな香木のかけらを加熱するわけですから、含まれる全ての香りの成分にとって適温となる様に設定することは、大変に難しいことです。

上手に香木を炷くという目的を最も合理的に追究し、工夫を重ねたのが、香道において用いられる方法、すなまち聞香炉・灰・香炭団・銀葉および火道具による聞香方式であると言えます。

聞香炉は、心地良く掌にのせられるものであれば、一応の要件は満たせます。

灰は、熱しても匂いが無く、粒子の細かいことが要求されます。

香炭団は、やはり匂いが無く、安定した火力を持続できるものが望ましく、燃え残りの灰が良質であることも大事な要件です。

銀葉とは、厚さ0.5ミリほどの雲母の板に金属の縁どりを施したもので、この上に香木のかけらを乗せて加熱します。この銀葉がいつの時代に考え出されたものかについて定説はないのですが、初期に土片や銀の薄片を用いたのに比べると、聞香にとって最も大切な温度の調整、すなわち「火加減」が、飛躍的に容易になったことは特筆すべきかと思います。

火道具とは灰や銀葉・香木を扱うための道具で、七種類の道具で構成されることから「七つ道具」とも呼ばれます。流派によって形状や呼称に若干の相違があります。 (写真解説参照)

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