真南蛮という木所に対する香雅堂の考え方

 真南蛮ほど"守備範囲"が広い木所は、他に無いと思われます。問題は、「六国(木所)」の概念が生まれた当初から広かったのか、或いは徐々に広くなってしまったのかどうか、です。香雅堂は、後者だと考えます。そして、益々広がりつつあることに注意する必要があるとも考えています。"守備範囲"が広がる、すなわち木所の基準(世間の一般的な)が曖昧になった要因は、幾つか挙げることができます。「他の木所に当てはまらない香木を、迷った挙句に真南蛮に入れた」こと、「真南蛮らしい真南蛮が少なくなったために、比較的に似た特徴を持つ香木も使うようになった」こと、そして「"六国(木所)"の概念を"香木を産出国別に分類したもの"と解釈した結果、混乱に陥った」こと等です。

 六国(木所)に関して考察するには、他に相応しい機会があろうかと思います。主題が余りにも重要で内容も多岐に亘るため、多くの誌面を要することになるからですが、今回採り上げた真南蛮に関して、現状に顕著な問題があると感じていますので、少し触れさせていただきます。「六国(木所)=産出国別分類」とする解釈を定着させた嚆矢は、志野流香道第二世御家元志野宗温の門弟であった建部隆勝が著した『香之記録』とされているようです。そして定着した解釈の中味とは、
 羅国(羅斛)=タイ王国
 真那賀(満刺加、真那伽、真南賀)=マラッカ
 真南蛮(真蛮、真那斑)=マラバル
 佐曽羅(差咀羅)=サッソール
 寸門陀羅(蘇門答刺、寸聞多羅)=スマトラ
というものです。(参照:大枝流芳著『香道奥之栞』)

 いずれも、伽羅と同様に、外国の言葉の発音から類推した漢字を充て、表記したものと考えられます。問題は、発音が意味した内容が、香木の産地を意味するものとして国名や地名と結び付けられたことが、果たして妥当であったかどうかです。私見では、上記のような六国の解釈は、必ずしも事実と合致しているとは言えず、混乱を招く元になったと考えています。

 【羅国とタイ王国(シャム)とが如何にして結びついたものか、定かではありません。 明治期以前の日本におけるタイ王国の呼称は「シャム」、表記は「暹羅」でした。これは暹(せん)国が羅斛(らこく)を併合して生まれたことを由来とする国名「暹羅斛」を省略したものであるようです。暹国はアユタヤ、羅斛はラウォー(ムアンロッブリー郡ロッブリー県)であるというのが、現代での定説です。もし、この「羅斛」を「羅国」としたのだとすれば、「羅国=シャム(タイ王国)」という結びつきが成り立った経緯が理解できます。マラッカは15世紀にマレー半島南岸に栄えた王国で、香辛料貿易の中継港として重要な拠点でした。マラバルとは、インド南西部ケーララ州の海岸部の地区を指すようです。サッソールは、インドのデカン高原ブーナ地方の地区のようです。】

 最も大事なことは、建部隆勝や大枝流芳が、たとえ流派に大きな功績を遺した高弟であったとしても、「御家元では無かった」という点にあります。真の「六国(木所)」の基準は御家元・御宗家の中にのみあり、如何に伝えるかは、御家元・御宗家次第です。(存じ上げる範囲では、御伝授「六国五味伝」の『六国列香之瓣』に、産出国のことなど、一言も出て来ません。強調されることは「師説を受くべし」であり、それは、六国の判定の重要性・繊細さ、そして口伝の重さを物語っているように思います。)高弟といえども御家元・御宗家ではない余人が流派の大事を伝え残したことに対しては、例えそれが本意では無かったとしても、根本的に誤っていたと申し上げるしかないと考えます。(他言は無用と書き記していても、結局は「伝書」として残ってしまっているからです。)

 さて、香雅堂におきましては、真南蛮は「シャム沈香」でありタイに産出し、羅国は「ドロ沈香」でありベトナムに産出すると、先代に教わりました。(加えて、真那賀も「シャム沈香」であるとも教わりました。)もちろん例外が皆無とは申し上げられませんが、少なくとも志野流香道第二十世御家元から極を頂戴した真南蛮『乱れ雲』は、シャム沈香の中から厳選したものでした。(一方、代表的な羅国として著名な六十一種名香『古木(こぼく)』は、伽羅に紛う立ち方をすることもありますが伽羅ではなく、外見も、明らかにベトナム産沈香の特徴を有しています。)

 その『乱れ雲』の香気の中から特有の「匂いの筋」を聞き分け、真南蛮の印とさせていただいていますが、知る限りにおいては、それはシャム沈香に具わっている香気であり、タニ沈香(インドネシア産)には無いものです。「さまざまな佐曽羅」の項でも触れましたが、近年ではインドネシア産沈香を真南蛮に用いられる傾向が見受けられるようになり、注意が必要と考えています。(殊に御家流において、通常は用いられることが無い沈香の佐曽羅が真南蛮とされる事例が多いためです。)

 随時、真南蛮の「匂いの筋」を具えると思われるシャム沈香を紹介して参りますので、お試しいただきます様、案内申し上げます。

 ※香木の写真をクリックすると、該当の香木の詳細説明ページに移動します。移動したページは弊社オンラインストア内のページでもございますことをご了承ください。

さまざまな真南蛮のご紹介

仮銘「花のあたり」
仮銘「白雲」
ご購入方法について

→ 販売方法は、店舗内での対面方式を原則とさせていただいています。予め小さく截香(せっこう=塊の香木を挽いたり割ったりすること)しておくことによる劣化を防ぐ意味合いもさることながら、お客様のご要望―どの流派に属しておられ、どのような香組に用いられるのか、一たき分の大きさはどれくらいか等々―を承った上で、1000種類を超える中から最適と思える香木をお勧めしたいと考えるからです。(但し、御先代・御当代に拘らず、志野流香道御家元の銘付香木につきましては、四伝の御伝授に必要とされる志野流香道のご門弟に限り、最少量をお分けしています。)

→ 遠方にお住いのお客様の場合、ご旅行やご出張のついでにお立ち寄りいただくことも多々ございますが、なかなか機会が訪れない場合も、また狭い店内に長時間に亘って滞在される余裕がおありでない場合も多いため、お電話やメールでのお問い合わせにも対応させていただきます。また、時折はオンラインショップ(kaorimiyabi)でも案内して参ります。

→ オンラインストアに掲載されている香木は、取扱い商品全体のごくごく一部(少なく数えても1000種類以上の香木の取り扱いがございます)とお考えください。掲載の無い御香木で御入用のもの等がございましたら、お気軽にお電話もしくはメールにてお問い合わせください。

→ ご来店でのご購入をご希望の場合、お手数ですが電話(03-3452-0351)または下記アドレスまでメールでご連絡ください。香木担当(香雅堂 主人)より日程の相談や状況の確認を簡単にさせていただきます。ご予約無しでのご来店の場合、担当者が不在または来客中ということがございますことご了承ください。
メールアドレス

→ 御注文の際には、①御所属であれば香道の流派(流派によって木所の分類の認識や、一ちゅう分の香木の大きさが異なる為)②大体のご予算③お決まりでしたらご所望の木所④香木の形状(塊、短冊状、その両方など)⑤一度に何名程度で聞く為か、等の情報をお教えいただける範囲でご指示いただけますと、御所望の御香木をご案内させていただき易くなります。