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茶道宗和流
十八代 宇田川宗光 茶の湯と香

茶道宗和流 十八代 宇田川宗光 茶の湯と香

『麻布香雅堂』は2016年に、2種類のオリジナル香『一枝風(いっしのかぜ)』『千歳薫(ちとせのかおり)』を制作しました。きっかけは、2016年に銀座三越で開催された『モノガタリ--主客の楽しみ--』。宇田川宗匠が厳選した“日常でより自由に使い易いように考えた道具たち”を紹介することで、茶道をより身近に感じてもらうことを主旨としたイベントでした。


  • 山田 悠介
    『麻布香雅堂』
    代表取締役社長
    山田 悠介
  • 宇田川 宗光
    『茶道宗和流』
    十八代
    宇田川 宗光

—–  気軽に楽しめるのがお線香の利点

山田:茶道といえば練り香、もしくは角割りというイメージがあります。今回はなぜお線香という形態をお選びになったのでしょうか。

宇田川:誰もが気軽に楽しめると考えたからです。持ち運べるし、火をつけるだけで空間の雰囲気をがらりと変えることもできます。お線香ひとつで日常的な生活空間を、お客様をお迎えする“特別な空間”へと変えられるということを知っていただきたかったんです。

山田:香りで空間の役割を切り替えるわけですね。

宇田川:とくに一般家庭での空間演出を考えると、お線香というツールが最適と考えました。


—–  枠にとらわれず、自由な発想で線香を活用

山田:通常、茶会の本席では、お線香は焚きませんよね?

宇田川:通常は焚きませんが、炭点前のない時は、たまに炉の中にくべることがあります。書院飾りに香炉を飾って、線香を立てるのもありだと思っています。

山田:なるほど、そこはお好みで、ということですか。実際、宇田川先生のお茶席で、香炉を床の間に置いているのを何度か拝見したことがあります。

宇田川:掛物が仏様の絵の時には、お香を手向けるける気持ちで置くのもいいと思っています。花を手向けるのと同じ感覚ですね。

床の間 香炉

宇田川宗匠と香雅堂とのお付き合いは、宇田川宗匠のご祖母様が志野流香道をされていたことが縁で始まりました。2010年頃には、宇田川宗匠が勤務されていた根津美術館(東京・青山)で、オリジナルスティック香『那智(なち)』『夕照(せきしょう)』の製作にも携わっています。


—–  似て非なるかおりを求めて

山田:宇田川先生に最初にお目にかかったのは根津美術館でした。

宇田川:はい。『那智』と『夕照』を制作する際、以前よりご縁のあった香雅堂さんをご紹介させていただきました。

山田:宇田川宗匠の好みのお香に関しては、最初は『モノガタリ』に出展するためのお線香を1種類作りたい、というお話だったかと記憶しています。

宇田川:根津美術館でいろいろと試作をした際に、白檀と沈香の、純度が高い香木本来の香りが気に入っていました。それで山田さんにご相談させていただきました。

山田:ベースが同じでも、混ぜるものがほんの少し変わるだけで印象が変わるということをご説明したと思います。


—–  少しのアクセントで、印象はがらりと変わる

山田:サンプルはいずれも純度が高い香木のブレンドで、白檀と沈香のそれぞれに、麝香、零陵香、龍脳をほんの少々混ぜてアクセントを加えた6種類を作りました。白檀、沈香の両方からひとつずつ選んでいただけて、すごく嬉しかったのを覚えています。

宇田川:当初は白檀か沈香どちらかで作ろうと思っていたのですが、サンプルを試し聞きするうちにいずれの良さも捨て難くなり、思い切って2種類作ることにしました。

『一枝風』『千歳薫』

選ばれたのは、白檀と零陵香、そして沈香と麝香を調合した香り。『一枝風』と『千歳薫』という銘は、いずれも一休宗純の墨蹟から拝借したものです。


—–  一休さんへの思いをカタチに

山田:なぜ一休さんの言葉を選ばれたのでしょう。

宇田川:私は京都・大徳寺真珠庵の山田宗正和尚の下で得度したのですが、その真珠庵は一休さんが開祖とされる禅寺です。ですから、元々一休さんには思い入れがありました。

山田:今年のお初釜でも、一休さんにちなんだ軸を掛けていらっしゃったのが印象的でした。

宇田川:『一枝風』も『千歳薫』も、一休さんが書いた漢詩の中に登場する言葉です。『一枝風』については、私の三鷹の茶室、『一枝窓(いっしそう)』にもちなんだ名前にしようという思いもありました。

山田:パッケージの文字は、一休さんの墨蹟から取ったそうですね。それぞれの香りの印象と銘の語感がしっくり合う、いいお名前をつけていただきました。


—–  ひとつの部屋に、ひとつのかおり

山田:宇田川先生は普段、どのように2種類の香りを使い分けているのでしょうか。

宇田川:『一枝風』は、主に三鷹の自宅の『夢尋蔵』 と、この『Sahan』で焚いています。『千歳薫』は、自宅では仏壇のある広間で焚くことが多いですね。

お香を焚く

『Sahan』とは、宇田川宗匠が開いた小間の立礼茶室『夜咄Sahan』のこと。茶会や小規模なワークショップなどを催すほか、バーとしても機能する実験的なスペースです。今回は宇田川宗匠のお招きにより、こちらで対談する運びとなりました。


山田:先ほど躙(にじ)り口をくぐったとたん、『一枝風』の爽やかなかおりに包まれました。

宇田川:「この部屋にはこのかおり」というイメージを持って、同じかおりを焚き続けるようにしています。

山田:季節や状況によって変えるのではなく、空間ごとにかおりを振り分けているということでしょうか。

宇田川:そうです。焚き続けることで、そのかおりが部香移っていくことも期待しています。ただ、茶室では、炉の時期には沈香がいいから『千歳薫』、風炉の時期に香爽やかな『一枝風』というふうに、変化をつけることもあります。部屋としては、『千歳薫』は濃茶の空間の方が合うイメージがありますね。


—–  部屋とかおりのイメージを重ねる

山田:部屋に香りを移すという発想は、私にはありませんでした。何か、そう考えるようになったきっかけがあったのでしょうか。

宇田川:それもやはり根津美術館の『那智』になるのですが、私はその香りが大好きで、茶会を催す度に焚いていたんです。そうしたら、いつしか『那智』のかおりを嗅ぐと、ふとその茶室の様子が思い起こされるようになりました。

山田:部屋とかおりのイメージがひとつになったんですね。

宇田川:意識して決めたわけではないのですが、なんとなく、「この部屋ではこのかおりを焚く」、というふうになっていきました。

山田:ひとつの空間をひとつのかおりで染めていくというのは、先ほど伺った、お茶席の炉にお線香をくべるのと同じく、素敵なアイデアだと思いました。

線香


—–  和の文化に親しめる、実験的な空間

宇田川:今日お越しいただいた『Sahan』は、お茶を楽しむことを主眼とした空間です。伝統的な茶室のスタイルを踏襲していますが、立礼式(りゅうれいしき=椅子に座って行う点前の形式)のカウンターを設え、楽に過ごしていただけるように設計しました。

山田:今日初めて伺いましたが、まさか、お茶室でバーとは……

宇田川:「お茶室」というと敬遠される方がいらっしゃるかもしれませんが、「バーでお酒」なら、気楽に来ていただけるのではないかと考えました。

山田:バーテンダーの方もお茶の素養があるんですね。

宇田川:お茶の点前は習っています。入口はカクテルでも、お茶にちなんだオリジナルカクテルのストーリーや彼との会話を通して、茶道や美術品、お香、料理など、様々な日本文化に興味を持っていただけたらと思っています。

Sahan


—–  お茶室とバーに共通するもの

宇田川:茶道とバーは、どこか共通しているように思えませんか? お店とお客様、つまり招く側と招かれる側の両方に気遣いがあって初めて成立する空間ですよね。これが日本らしいもてなしだと思います。

山田:この関係をご家庭に置き換えると、お客さんを呼んだり呼ばれたり、ということになるでしょうか。

宇田川:はい。そうした「呼んで・呼ばれて」の関係を築くことが、茶碗などの日用品、ひいては伝統工芸品への興味を喚起することにもなると思います。たとえば、1人でだったら、お酒は缶のまま飲んでもいいわけですが、「今日はお客さんが来るからちゃんとグラスに入れよう」とか、「いつもの紙パックのお酒だけど、今日は徳利に入れ替えよう」と思うじゃないですか。

山田:ちょっとした特別感を出したくなりますよね。その心遣いが大事というわけですね。


—–  かおりが特別な空間をつくる

宇田川:空間についても同様で、いつもと違う、ちょっと特別な雰囲気を作るのに、お香が役立ちます。香水のような甘ったるいかおりだと場違いですが、香木の自然なかおりは、茶室のような、日本的な雰囲気をかもし出すのに欠かせません。

山田:たとえそこがお茶室でなくても、ですね。確かに、日常的な空間を特別な空間に変える力がお香にはあると思います。


—–  これからの展開

山田:お線香に続き、正式なお茶席で使うオリジナルの練り香づくりもお考えでしょうか。

宇田川:はい、いつか作りたいと思っています。一般の参加者を募りながら「練り香をつくる会」を開いて、皆さんと一緒に自分好みの香りを探していくのも楽しいかな、と考えています。この『Sahan』で、香りのワークショップを開くのはどうでしょう。

山田:それは楽しそうですね! 参加者それぞれが調合した香りを聞き合って、意見を交換したり、人気投票をしたりしてもよさそうです。

宇田川:講師の先生が一方的に話す「勉強会」もアリですが、自分も参加できるイベントにすれば、より身近に感じてもらえるのではないかと思っています。

山田:考えるだけでワクワクしてきました。是非近々実現させましょう。


宇田川宗光プロフィール写真

プロフィール

茶道宗和流十八代 宇田川宗光(うだがわそうこう)

1974年東京都生まれ。十六代堀宗友に宗和流茶道を学び、2015年に十八代を襲名。同年、大徳寺・真珠庵の山田宗正和尚の下で得度し、寒鴉齋(かんあさい)の号を授かる。

 
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