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志野流香道若宗匠
歴史のバトンをつなぐ

志野流香道若宗匠 歴史のバトンをつなぐ

『麻布香雅堂』は2017年5月、The Japan Store Isetan Mitsukoshi Paris(パリ日本文化会館内)からのご依頼を受け、「桂離宮での観月」をテーマにした2種類のかおり箱を製作。2018年5月には、名古屋髙島屋での催事に向けて、『組香シリーズ』と呼ばれる3種類のかおりのプロダクト(かおり箱・スティック香・文香)を製作しました。

  • 蜂谷宗苾
    志野流香道
    第21世家元継承者
    蜂谷宗苾
  • 山田 悠介
    『麻布香雅堂』
    代表取締役社長
    山田 悠介

いずれのプロダクトも、監修は志野流香道21世家元継承者である蜂谷宗苾氏が担当。蜂谷氏と『麻布香雅堂』山田悠介が本格的にタッグを組んだ、初の取り組みとなりました。

—– 父親同士のお付き合いから繋がるご縁

山田:志野流と麻布香雅堂とのお付き合いは、父の時代に始まりました。ご当代や若宗匠とのお仕事の話も、父から色々聞いていましたが、特に印象に残っているのが、雑誌『ブルータス』の特集でした。

蜂谷:創刊25周年の記念号ですね。2005年ですから、もう14年前。ちょうど宗苾の宗名を授与され、21世家元を正式に継ぐことが決まったばかりの頃でした。

山田:畠山美術館に読者を招いて、数々の逸話を持つ名香、蘭奢待(らんじゃたい)を焚くという、普通に考えたらありえない企画でした。

床の間 香炉

蜂谷:蘭奢待を聞く『名香席』に列席する読者の方々のための事前講習会を香雅堂さんで行ったんです。その際、お父様にはいろいろと助けていただきました。

—–  印象深い『セルリアンタワー金田中』での初香会

山田:はじめは父の仕事に同行していましたが、そのうち私が一人で、催事会場などにお道具をお届けしたり、準備のお手伝いをしたりするようになりました。以来、色々とお仕事をさせていただきましたが、とりわけ印象深いのが金田中さんでのお初香会です。

2017年に料亭『セルリアンタワー金田中』で催された初香会には、前年のNHK大河ドラマ『真田丸』で主演を務めた俳優の堺雅人さんや杏さん、歴史学者の磯田道史さん、徳川家や真田家のご当代などが招かれ、華やかな雰囲気に包まれました。

忍草

『麻布香雅堂』を父から引き継いだ山田悠介は、引き続き志野袋や火道具、畳紙といった既製のお道具を収めるほか、蜂谷氏のご依頼を受け、御誂えの香道具を作製。蜂谷家とゆかりの深い、忍草の蒔絵を施した三枚組の四方盆や長盆、重香合を製作しました。その後、蜂谷氏監修の下、『The Japan Store Isetan Mitsukoshi Paris』(パリ日本文化会館内)のために2種類のかおり箱と、「組香シリーズ」の製作にも取り組むことになります。

かおり箱写真

—–  プロダクト監修の根底にある思い

山田:こうした一般向けのプロダクトを監修する場合、普段とは違う心持ちで臨んでいらっしゃるのでしょうか。

蜂谷:僕自身は、香道も、こうしたプロダクト製作も、突き詰めると同じ発想で臨んでいるように思います。

山田:それはどのような?

蜂谷:かおりでみんなを幸せにしたい。これに尽きます。かおりで癒されてほしい、笑顔になってほしいと思っているのですが、聞香となると、作法を身につけないとできませんよね?

山田:それで、作法を知らなくても楽しめるプロダクトを考えられた。

組香シリーズ1

蜂谷:はい。「作法を知らない人はお香を楽しめませんよ」というスタンスでは、香道は広まらないし、伝わらないでしょう。それどころか、もうそれで“おしまい”にもなりかねません。もちろん、最終的には聞香をしてほしいという気持ちがありますが、まずは入口を広げることを考えました。

山田:フタを取っただけで香るかおり箱は、火も使わないので気軽に楽しめると好評です。

蜂谷:そこから文香、スティック香と展開していきました。これからの時代、こうしたプロダクトの開発はますます必要になると思います。

組香シリーズ2

—–  すべては香道の未来のために

山田:オリジナルプロダクトのコンセプトを「組香」とした理由を教えてください。

蜂谷:最初に思ったのは、一般的には知られていない組香に親しんでいただきたいということでした。

組香とは、数種類の香木を焚き、その香りを識別する遊戯のこと。和歌や物語のテーマに基づいて考案された組香のバリエーションは、300種類にのぼる。

香木

山田:組香は、一般の人にはできないという意味での特別感がありますし、300種類もある組香にそれぞれ番号がついているのも、面白いと思います。

蜂谷:これがきっかけで、実際の組香を「今度やってみようか」という気持ちになっていただけたらうれしいですね。

山田:こうしたプロダクトが、香道の発展にもつながるとお考えでしょうか。

蜂谷:まさにそのとおりで、こうした新しい取り組みの成果は、香道に帰ってくると考えています。

山田:帰ってくる、というと?

蜂谷:一般向けのプロダクトを開発・販売することでいただく対価を、香道に還元するのが理想です。僕の頭の中では、「プロダクトを販売する⇒買ったみんなが笑顔になる⇒その対価をいただく⇒香道を発展させる」というサイクルのイメージが、いつもグルグル回っているんですよ。

組香シリーズ3

—–  結んだ絆を未来へとつなぐ

山田:香道の発展のために、私たちには何ができるのか、考えさせられます。

蜂谷:伝統を守るだけでなく、時流に沿ってイノベーションしていくことも大事だと思います。何百年もかけて作り上げた基本を変えるつもりはありませんが、一から始めた初代と同じ心持ちで、チャレンジも続けていきたいと思います。

山田:私たちもいろいろと協力させていただきながら、このご縁を将来へとつなげていきたいと思います。今日はありがとうございました。

若宗匠プロフィール

プロフィール

志野流香道第21世家元継承者 
蜂谷宗苾(はちやそうひつ)

1975年、室町時代より500年に渡り香道を継承する志野流第20世家元蜂谷宗玄の長男として誕生。2002年より1年間大徳寺松源院泉田玉堂老大師の下に身を置き、2004年に軒号「一枝軒」宗名「宗苾」を拝受。以来、若宗匠として全国教場などでの指導に当たるほか、海外での香道普及にも努める。

 
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