輪島塗の里 訪問記(4) 人間国宝 小森邦衞さんの漆芸②

小森さんのお話を伺い、作品を拝見して、気付いたことが幾つかありました。

それから何日かを経て、その間に何度もそれらのことを思い起こすうちに、輪島で得られた様々な事柄が、
全て一つの方向、行く手に、繋がるように思えてきました。

うまく表現できるかどうか判らないのですが、書き進めてみることにします。
(あくまでも素人の感想に過ぎませんので、間違い等ございましたらご指摘賜りたく、
どうぞよろしくお願い申し上げます。)

「曲輪造籃胎喰籠」(石川県輪島漆芸美術館発行の図録より)

小森さんの作品からは、端的に言い表すと“温もり”のような、好ましい感覚を与えられます。

決して奇を衒うことなく、また加飾に重きを置くことなく、ただひたすらに素材への愛情を形に顕わし、
それでいて器としての「用」を捨てることはしない。

使う人もまた、そのようにして作られた器の“心地よさ”を共有しつつ、幾久しく愛でることができそうです。

網代重箱「曉天」(同上)

このような小森さん特有の表現手法は、恐らく、「輪島塗」の範疇にとどまらないものと思えます。

輪島塗技術保存会が保持団体として重要無形文化財の認定を受け、さらに伝統的工芸品の指定をも受けている
「輪島塗」が満たすべき事項として、通商産業省の告示によって細かく定められている要件を、
必ずしも満たしていない(部分的に)と見受けられるからです。

その事実に気付き、どういうことかと考えた挙句に、ある推論を得るに至りました。

全くの私見で恐縮に存じ上げるのみですが、それは「小森さんが辿っておられる道が輪島の将来に繋がっていて、
見据えておられるその視線が、一条の燈火となって輪島の未来を照らし出しているのではないか?」というものです。

香道や能楽における「型に入りて型を出る」という境地に通ずる感性こそが今の輪島に求められているのだと、
小森さんの作品が無言のうちに語りかけておられるような、そんな気がしてならないのです。

永年に亘って培われてきた伝統工芸を幾多の先哲のもとで真摯に継承しつつ、漆という素材が持つ魅力の深みを知り、
その素晴らしさを形に顕わす技術を磨き、用に美を添わせるようにと研鑽の道を辿る…

その道の軌跡にこれからどんなものを見せていただけるのか、知りたいと願っています。

能登空港を発つ前に、もう一人の漆芸家の工房を訪ねることができました。
輪島市役所や石川県輪島漆芸美術館、そして九州国立博物館などで活躍され、現在は輪島口漆工芸社の代表者として
漆器の修復等に取り組む、島口慶一さんです。

小森さんと同様に“漆の力”を知る島口さんからは、輪島の漆芸や産業についての総論的なお話も伺うことができました。
次回に、触れてみます。

(麻布 香雅堂 主人)