東慶寺で初の「鑑賞香席」―第60回式楽茶会

『組香席の他に、香木の香気をゆっくり味わうことができる「鑑賞席」を設けたい…』
3月3日に催された東慶寺 第60回式楽茶会では、奥様のご発案により、「鑑賞香席」が設けられました。

お引き受けはしたものの、大規模なお茶会の一部として組香以外の香席を担当した経験は無く、
果たしてどんな結果になるやら想像もできないまま、お聞かせする香木や配布する資料の準備を調えました。

会場となったのは、「白蓮舎」(立礼席)。
初夏には菖蒲が群生して存在感が際立つ白蓮舎ですが、まだ梅が蕾を開き始めたばかりの3月初旬の候、
鶯の地鳴きが時折り聞こえる他は、ひっそりと静寂を保っています。

白蓮舎の脇から本堂を望むと、ちらほらと咲く可憐な梅の花が目を奪います。

テーマを「伽羅と羅国との違い」、殊に「伽羅の“甘”と羅国の“甘”との違いを知る」ことに絞り、
二種の香木を用意しました。

1.「仮銘 春風」(羅国) 
 証歌:梅花遠薫と云う事を詠める―源 時綱
    吹来れば 香を懐かしみ 梅の花 散らさぬ程の 春風もがな(詞花和歌集 巻第一 春)
2.「仮銘 深き色」(伽羅)
 証歌:西四條の斎宮のもとに花つけて遣わしける―藤原 敦忠
    匂ひ薄く 咲ける花をも 君がため 折としをれば 色まさりけり
    返し―雅子内親王
    折らざりし 時より匂ふ 花ならば 我がため深き 色とやはみる(玉葉和歌集 巻第十二 恋歌四)
(木所の分類及び仮銘の選定共に、香雅堂が便宜上行ったものです。)

参加者が90名を超えることになり、急遽定員を30名様に設定し直し、計4席を開催しました。

「香木って、何? どんなもの? どうしてできるの?」といった疑問にお答えする解説をはじめとして、
香気の奥深さに迫る内容を目指した鑑賞香席でしたが、気楽な雰囲気の中ゆっくりとお過ごしいただくことができ、
お喜びいただけたようでした。

殊に、組香席ではなかなか実現できない“火末を聞く”試みも行なうことができ、とても良かったと思います。
「仮銘 深き色」は、約30名の参加者に3巡してもまだ末枯れることなく香気を放っており、我ながら驚きました。

組香席は、「琴玉香」。
香道志野流東慶寺教場の稽古場でもある「寒雲亭」で催されました。

これまでは香道志野流麻布教場(高桒緑子教授)の皆さんが組香席を担当されて来ましたが、今回初めて、
東慶寺教場の皆さんがお手前を担当、緊張しつつも日頃の稽古の成果を発揮され、有意義な会となりました。

薄茶席の会場「水月堂」には何と前田青邨の軸が掛けられ(さすが名刹!)、先日の練香づくり体験の際に
東慶寺の奥様が自ら作られた「黒方」・「侍従」が焚かれていて、感動的でした。

本物の麝香の香気が上質な香木と調和を保って放たれる薫物は長く余香を保ち、筆舌に尽くし難い、
雅やかで艶なる風情を醸し出していたのです。

鑑賞香席を4席も行なった疲れも吹き飛ぶような、心身に染み入る薫物の香気に癒された、素敵な雛祭りでした。

(麻布 香雅堂 主人)