アラブの皇太子殿下、伊万里焼の香炉にご満悦

2月に入った頃、『アラブの皇太子殿下ご一行にプレゼントする香炉を揃えたい』というご依頼が舞い込みました。
ご一行の各位に一つずつ謹呈されるとのことで、必要な数は数十個。レセプションの日程は24日。
通常であれば『準備期間が足りそうもなく、ご要望に副いかねます』と辞退させていただくところですが、
電話でお話しているうちに、何となく何とかなりそうな…と言うより “ 何とかしたろやないか ” 的な、
あまり根拠のない自信と闘争心のようなものが沸々と湧き上がるのを覚え、『がんばってみます!』と
答えてしまいました。

先様の第一希望は「古伊万里の名品」、見つからなければ「現代の名人による秀作」ということでした。
佐賀県の焼物業界には何人か知り合いがおられますので電話を掛け倒し、産地の現状の把握に努めました。
その結果、厳密には「古伊万里」とは言えないものの、19世紀の「パリ万博」に出品された角型香炉の名品が、
有田で見つかりました。蓋の上には金の宝珠を持つ獅子が睨みをきかせ、耳には魔除けの鬼面が一対、何れも
「瑠璃」で焼成されており、香蘭社特有の呉須に細かい海松が地紋のように金で描かれた、見事な染錦です。
当時の輸出品には共箱が無いのが普通らしく、急いで桐箱を調製していただき、箱書の手配を依頼しました。
香蘭社のご当代が鑑定されたところ本物に間違いないとのことで、箱書を快諾して下さったのです。

また、献上手の名人福右衛門窯のご当主もご健在で、「白虎図」・「松竹梅図」・「玄武の亀図」の三点が、
箱書も済んでいるとのことでした。

それ以外の数十個は伊万里・有田では揃える見込みが得られず、急遽、九谷焼の窯元に相談し、「金花詰」
用に焼き上がっている素地に徹夜で絵付けして、期日に間に合わせていただくことになりました。

「現代の名人による秀作」としては、京薩摩の力作も候補に挙げさせていただきました。

先様が検討された結果、「古伊万里」及び「京薩摩」の香炉はサイズが小さいということで見送られ、
皇太子殿下には福右衛門さんの「玄武の亀図」が謹呈されたそうです。
日頃から香木を焚くことを好まれているそうですが、伊万里焼の香炉は初めてで、いたくお喜び下さったとか。
その他の香炉も無事に完成して随行員ご一行にプレゼントされたとのこと、胸を撫で下ろす心地でした。

「古伊万里」と「京薩摩」は、折角なので記念に手許に置くことにしました。

それにしても皇太子殿下、福右衛門さんの香炉も愛用して下さるのでしょうか?
遠くアラブの王宮に思いを馳せて、慌ただしいながらも楽しい何日かを過ごせたことに感謝している次第です。

(麻布 香雅堂 主人)