小森邦衞さんのお椀

小森さんの個展を拝見するため、名古屋に出向きました。

これまで幾度か作品を拝見したことはあったのですが、実際に使ったことはなく、
今回は日常的に愛用できる作品を手許に置きたくて、お椀を購入させていただきました。

小森さん椀

「自分にもできる」と感じて20歳の頃に漆の道に入り、「自分だからできる」と頑張って30代・40代を
過ごし、「自分にしかできない」との思いで60代を迎えた小森さんが「今の自分にしかできない仕事」
として完成された数々の作品の中で最も安価なお椀ですが、優しくて誠実なお人柄の温かさが掌に伝わり、
とても嬉しいです。

樽見幸作氏に弟子入りし修行を積む傍ら、当時新設された漆芸研修所に入り、松田権六氏と出会って
薫陶を受けた小森さんは、『本当に貧乏だった』と述懐されます。
そんな中で「自分のサインが入れられる物を作りたかった」とのことですが、このお椀にも、
控え目ですが記されています。

小森さん椀のサイン

曲輪造・籃胎の技法を学びつつ、両者を融合させることによって唯一無二の存在となった小森さんですが、
重要無形文化財の漆芸を支えているのは「塗師」としての卓越した技術だと拝察しています。

小森さんに「塗ってみたい」と思っていただけるような器胎を、香道具として作りたい――そんな夢を、
新しい年の初めに見られることを祈念する年の瀬です。

(麻布 香雅堂 主人)