(12)香席への招待

「茶の湯とは ただ湯をわかし 茶をたてて 呑むばかりなる 元を知るべし」―利休の心は、香道の真髄にも通じます。

前号で触れたように、香道と言えば先ず組香の会が連想される風潮のあることは事実ですが、香道の基本は飽く迄も一炷聞にあるのであり、一片の香木に秘められた広大無辺な香りの宇宙に全身全霊を解き放つことこそが原点であり、また究極の境地であることをご理解いただきたいと思います。

さて、お香の会(香席)とはどの様なものか、簡略に説明してみます。

客人(連衆)の数は十名以下が基本であり、会場は、通常八畳ないし十畳の和室を用います。床脇には、当日所要の香道具が飾付けられています。

案内を受けた連衆は、上客(正客)から順に入席し、所定の座に着きます。最後に入席する連衆は詰と言われ、上客と共に重要な役割を果たします。

次に、主催者側の主役である香元と、記録係の筆者(執筆)が入席し、所定の座に着きます。香元が香炉を送れる位置に上客が、そして、順に回し終えた香炉を筆者に戻せる位置に詰が着座していることが基本です。

挨拶の後、手前が始められます。香元の手前は、連衆に香木を炷き出す準備であり、筆者の手前は、香席の記録を書き残す準備です。この間に、連衆は組香の答えを記入する用紙と、それに用いる硯箱を順に受け取ります。

香炉の用意が整えば、いよいよ香木が炷き出されます。試香が二種ある組香であれば、最初に「一」が回され、次に「二」が回されます。香元はそれぞれ「イチ」「ニ」と発声しながら香炉を上客に送りますので、聞き終えた上客は、同様に送り言葉と共に香炉を次客に回します。連衆は「一」の香木の香りを十分に味わいつつ、その特徴や印象を何らかの方法でしっかりと記憶しておかねばなりません。「二」の香木についても同じです。

試香が終わると、「ご安座に」との言葉が送られ、「出香」あるいは「本香一炉」との送り言葉と共に、本香が炷き出されます。一同足をくずし、楽な姿勢で次々に回って来る香木の香りを堪能しつつ、それが試香の「一」と同じであるか、「二」と同じなのか、あるいはそのどちらでもない(客香と呼びます)のかを判断し、回答用紙(手記録紙・名乗紙・記紙)に記入してゆくのです。

筆者(執筆)は、回収された連衆の回答を記録紙(香記)に写し、正解を本香の順に発表し、各人の点数を記入します。完成した香記は、最高得点者(同点の場合は上客に近い者)に栄誉として贈られ、挨拶と共に香席は終了します。

香道の稽古をしいていない人が香席に招かれることは稀かと思いますが、機会があれば、気楽に参加されることをお奨めします。作法を知っている必要などありません。香木が持つ他に類の無い香りを、心から味わう気持さえあれば十分です。心得るべきことは、香水など強い香りのあるものを身につけないこと、ただそれだけで良いのです。