(16)香木の正体 2

香道に用いられる香木のうち、最も重要なのが沈香の仲間で、伽羅もこの中に含まれます。

古来、稀少で高価なものとして知られ、幾多の説話や逸話を生み出して来ましたが、その正体については神秘的に語られることが多く、その曖昧さ故に、沈香の価値がより高められた感さえあります。

良質の沈香が貴重で、得難い価値のあるものだということは疑いのない事実ですが、他方で、現代にも通じる普遍の課題として、良いものと悪いものとを識別し、鑑定できる人材が極めて少ないという事実を指摘しておかねばなりません。

文献の上で、史上最も早く香木の鑑定を行ったのは、前号で触れた様に、聖徳太子でした。これは、後世に記された伝歴の記述によるもので、その内容にどれ程の信憑性があるものかは定かではないのですが、少なくとも、当時の知識は中国の本草学から得ていたものであり、必ずしも正確ではなかったと言えます。

本草学とは、中国における薬物についての学問のことですが、その研究の成果は「南方草木状」「南越志」「本草綱目」など数多くの本に著されています。それ等の中から、沈香に関する説明の部分を抜粋してみます。

「香はすべて沈・棧・黄熟の別がある。沈は水に沈み、棧は水に入れて半ば浮き半ば沈むもの、黄熟は水に浮くものである」

「沈香は水に入れると沈むものである。その品種におよそ四種あって、熟結は膏脈が凝結して自ら朽ちて出るものである。生結とは刀や斧で木を切り倒して膏脈の結ぶものである。脱落とは水によって朽ちて結ぶものである。虫漏とは虫の害によって結ぶものである。生結を上とし、熟結がこれに次ぐ。堅く黒いのを上とし、黄色なのがこれに次ぐ」

「木(沈香の原木=沈香樹)の性質は虚柔で、香りのあるものは百に一、二もない。木に水を得ると結ぶ(膏脈=樹脂が)ものである。多くは折れ曲がった枝や枯れた幹の中にあって、或は沈となり、或は棧となり、或は黄熟となる。自ら枯死したものを水盤香という。山地の住民が山に入って刀で曲幹・斜枝を切っておくと、年を経てそれに雨水が入り、ついに樹脂が結んで香となる。それを鋸でひき、割って白木を去ったものである」

「交趾(ベトナムの一部地域)の蜜香樹は、一般に、これを取るのにまず年を経た老木の根を切っておく。年がたってその外皮・幹は共に腐るが、木の心と枝節は堅く黒く、水に沈む。それが即ち沈香である。」

実に様々な記述があり、驚きと共に楽しささえ感じられます。現代の香木の専門家としての立場から見て、部分的に妥当とうなずける個所も多々ありますが、むしろ、共通して欠落している重要な要素があることに気付きます。それは恐らく、近年に薬学的見地から香木の謎に迫ろうとしている一部の研究者にも理解されていないであろう要素であり、詳細は次号に譲ります。