(18)香木の正体 4

前号で触れた様に、沈香とは、沈香樹の中に生成された特殊な部分であり、形や色、品質は千差万別です。その違いが何に依ってもたらされるのかは、明確には解明されていません。香道における「六国」は、沈香の種類を、その産出国をもとに分類したものと考えられていますが、実際には伽羅と羅国、真南蛮と真那賀、そして志野流で用いられる佐曽羅と寸門陀羅は、それぞれ同じ産地から得られることが多いのです。私見では、沈香の生成に関与する菌の種類の違いが、最も大きな要因ではないかと推測するのですが、残念なことに、それを立証するのは極めて困難と言えます。

乱獲に依って枯渇の危機を迎えている香木資源を、産地の自然環境と共に健全に回復させる為にも、私利私欲や売名を目的としない研究機関の協力を得て、沈香の生成の神秘を解明し、次代での収穫に希望を繋ぎたいと願っています。良質の香木が存在し続けてこそ、世界に類を見ない日本独特の香りの文化が、綿々と継承されてゆけるからです。

さて、伽羅と沈香の違いについて触れておきたいと思います。

両者は、原木の種類が同じであるという点で、同じ仲間と考えられます。しかしながら、「伽羅とは、最高級の沈香である」との表現は、必ずしも的確ではないのです。なぜならば、同種の原木から生成されるにも拘らず、伽羅は、他の沈香とは全く異なる特質を備えているからです。それは、ひとことで言い表わすならば、「樹脂分の粘着性」です。のこぎりで挽き比べると分かり易いのですが、どんなに質の良い沈香でも、粉はさらさらと乾いているのに対して、伽羅の場合は、どんなに質の悪いものでも、多少の粘り気があり、さらさらにはなりません。従って、手に取ってみても、沈香は枯れた印象で、常温ではあまり香りを出さないのですが、伽羅はどことなくしっとりとした感じで、高級テンぺルアルコール分を含有する為か、ほのかに芳香を発します。

香道で用いられる香木のうち、白檀の仲間、沈香の仲間に次ぐ三番目の分類が、黄熟香の仲間です。御家流で寸門陀羅として使われるのがこの仲間で、原木は沈香とは別種のゴニスリラス属であると言われています。